2023年に開催された第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、日本代表「侍ジャパン」が劇的な優勝を飾り、国内では歴史的な盛り上がりを見せました。
決勝戦・日本対アメリカ戦はテレビ朝日系列で平均42.4%という驚異的な視聴率を記録し、同時にAmazonプライムビデオによる配信も行われるなど、地上波と配信の「二刀流体制」で多くのファンを熱狂させました。
しかしその裏で、WBCの放映権料は急騰。
2017年大会から2023年大会までに推定3倍近く跳ね上がり、30億円規模に達したとされます。
日本のテレビ局にとっては大きな負担であり、次回大会に向けて地上波放送の継続が危ぶまれる状況となっていました。
2. Netflix参入の報道と最終決定
2025年夏、スポーツビジネス専門ジャーナリストの報道により、「Netflixが日本におけるWBC放映権獲得に名乗りを上げ、電通を通じて交渉を進めている」との情報が流れました。この時点で既に、地上波テレビ局とNetflixが競合する構図が見えていたのです。
そして8月26日、Netflixは公式に「2026年大会の全47試合を日本国内で独占配信する」と発表。
ライブ配信に加え、見逃し視聴も可能なオンデマンド配信を提供するとし、さらに大会を盛り上げる独自企画も準備していることを明らかにしました。
これは日本においてNetflixが初めてライブスポーツに本格参入する画期的な事例となり、同時にWBCという国民的イベントが完全にストリーミング独占となる初めてのケースでもあります。
3. 読売新聞社の声明:「当社を通さずに直接付与」
今回の発表に際して注目を集めたのが、読売新聞社の声明です。
読売新聞社は従来、WBC放映権を管理・調整する役割を担ってきました。
しかし今回、WBCの主催団体であるWBCI(World Baseball Classic Inc.)が、読売新聞社を介さずに直接Netflixに権利を付与したと発表しました。
声明では「当社を通さずに」というフレーズを明確に記載し、従来のプロセスが省略された異例の経緯を強調しました。これは単なる事実説明にとどまらず、国内メディアの立場が軽視されたことへの不満や危機感をにじませたものとも受け取られています。
4. スポーツ放送の大転換点
この出来事は、日本のスポーツ放送文化にとって極めて大きな意味を持ちます。これまで国民的イベントは「地上波で誰もが視聴できる」ことが前提とされてきました。しかし2026年のWBCは、Netflix加入者のみが試合を視聴できる構造となり、視聴環境は大きく変わります。
一方で、Netflixにとってはスポーツ分野でのライブ配信拡大を示す第一歩です。既にMLBのホームランダービーや他競技の権利獲得にも動いており、今回のWBC独占はその布石といえるでしょう。
5. 今後の影響と展望
- 視聴環境の二極化:加入者と非加入者で大きな格差が生まれる。
- 地上波の存在感低下:スポーツの国民的共有体験が縮小する可能性。
- ストリーミングの加速:Netflixがスポーツ配信でも主役となり、他社(Amazon、DAZN、Disney+など)との競争が激化。
- メディアの役割再編:読売新聞社の声明が象徴するように、従来の放映権管理スキームは大きな見直しを迫られる。
まとめ
2026年WBCの日本国内放映権がNetflixに直接付与されたことは、単なる放送プラットフォームの変化にとどまらず、スポーツメディアの在り方を根本から揺るがす出来事となりました。読売新聞社の声明が示すように、従来のメディア構造が崩れつつある今後、他の国際大会やプロスポーツの中継にも同様の変化が波及していくことは避けられないでしょう。